2010/11/07 (Sun) 「あかときくだち」サンプル

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■チカナリ。3元親緑ルート後のお話です。死にネタですのでご注意ください。

■■■



 ずっと後悔していることがある。
 後悔、と言葉を反芻し、いや、と元親はその言葉を否定した。後悔でなどある筈がない。悔いているわけではなかった。ただ、ずっと思い出し続けていることがある。
 ああ、そうだな、元親はふと笑みを浮かべたいような衝動に駆られた。それはどこか得意げであり、だがどこか自身を嘲るような、苦いものを滲ませて、仕方ねぇなと諦めるようなそんな笑みだ。
 思い出す。それは記憶だ。ただ、ずっと忘れえない、あの日のことだ。



***



 元親が堺の港に船をつけたのは数日前のことだ。船を出してやって欲しいとの家康の願いを、その友誼に掛けて元親が快諾しない筈もなかった。たとえ、家康の書状に、誰が来るのかとも、その行き先ですら記されていなかったとしてもだ。
 会えばわかるだろうと元親は笑って、恐縮する使者殿を見送った。そのことを少しばかり後悔したのは、実際にその人物に会ってからのことだった。その姿を見た途端、嫌な予感がしたのだ。
 よお、と声を掛けてきたのは、奥州の独眼竜伊達政宗だったからだった。
「あんたかよ」
「Ha、そりゃまた随分なご挨拶じゃねぇか」
「そりゃあ、なんであんたがこんなところに」
 政宗と元親は知らぬ仲ではない。政宗が元親に船を出して欲しければ、直接声を掛ければいいだけのことだ。わざわざ家康を介する必要もない。家康も、そんなことは承知している筈だった。
 だから、元親は政宗がなにか異なる用事で堺にやって来ており、そこにたまたま自分の船を見つけて挨拶に寄ったのだと思い、だが、自分がまったくそう思っていないのだということを同時に思い知らされずにいられなかった。
 政宗の姿を見つけた途端、家康の書状の主はこいつだろうと元親はあたりをつけてしまったのだった。
 同時に嫌な予感が湧き上がる。それが表情にも表れていたのか、政宗が視線の先でにやりと笑みを浮かべて見せた。
「いい顔してるぜ、西海の鬼さんよ」
 その企み事のうまく嵌まった時のような顔に、元親はますます渋面を作った。
「で、あんたは何しに来たんだ」
「船を出してくれって家康から文が届いてるんじゃねえのか」
 先に着いちまったか? にやにや笑いを崩そうとしない政宗は、元親の心境などわかって言っているに違いなかった。
 あー、と元親はぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜた。まったくもって分が悪いとしか言いようがなかった。先の天下分け目の合戦の折に、家康にも政宗にも、元親は弱みを握られているようなものだったからだ。今から思えば、無様なところを散々に見せてしまった。家康は気にすることはないぞ! と言ってくれるがそうもいかない。政宗にいたっては、よいからかいのネタを見たぜといわんばかりの態度だった。これにさやかも加われば、元親に太刀打ちできる筈もなかった。あいつが関わっていないだけましかと、元親は諦めて肩を落とした。で、と顔を上げる。
「で、あんたはどこに行きてぇんだよ」
 先に言っとくが、行き先に寄っちゃあ、すぐに出港できるとはかぎらねぇからな。
 付け加えたのは負け惜しみが半分だ。あとの半分は本気で告げた。政宗が家康を動かしたのか、家康が政宗を動かしたのか、どちらにしろ単独では承諾できかねる行き先ということだ。だが、元親には、例えば政宗に頼まれたとして、或いは家康に頼まれたとして、断るような行き先など想像がつかなかった。まさか政宗自ら、右目もつけずに外海に行く筈もないだろうが、と難所を頭に巡らせてみるものの、そんなところに政宗が行きたがるとも思えなかった。おまえと違ってな、と記憶の中でさやかが笑う。男の浪漫だろうがよう、とくだを巻く元親に対して、二人して呆れたように息を吐かれた。そんなところばかり、あの二人は気を合わせてくるのだった。
「Ha、心配するこたあねえよ。あんたらには、馴れた海の筈だぜ」
 無茶は言わねえよ、政宗の隻眼が相対する元親の眸の奥を探ろうとでもするように眇められた。元親は僅かに顎を引き、その隻眼を見て返す。その姿を見たときから嫌な予感がしていたのだと、政宗の眇められた眸を見て、元親は改めて思い出した。
「厳島だ」
 家康の頼みだ。あんたは、No、とは言わねえよなあ。付け加えられたその言葉に、思わず元親はまじまじと政宗の顔を見下ろしてしまった。

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