2006/03/21 (Tue) #003-p+j

ピオニーとジェイド。瘴気中和前。ダアト。


【p+j】



「なあ」
報告を終えて辞そうとしたジェイドをピオニーの気安い声が引き止めた。
「俺はおまえに何度死んでこいと命じたかな」
軽やかな口調で物騒な言葉を口にする主人にジェイドは眩暈を禁じ得ない。この幼なじみはいつでもそうだ。ジェイドは右手で眼鏡をなおしながら、彼の真意を測ろうとする。
「さて、陛下は人使いが荒いですからねぇ」
「そうだよなあ~。だが、おまえはいつもちゃんと帰ってきた。あの子供はどうだ」
「…逃げ出してもいいとおっしゃったのは陛下でしたね」
「逃げるかな」
「逃げないでしょう」
「逃げていいのにな」
「…馬鹿ですか貴方は」
「馬鹿でいいのにな」
あいつもおまえも馬鹿になったらいい。
「……陛下」
「わかってる」
諌める声に、ピオニーは自身の明るい金髪をくしゃりと掻き回す。埒もあかないことだと彼自身わかっているのだ。大なり小なり、人に死を命じる場面には何度も遭遇した。死ぬとわかっていて、だが、何もできなかったことも数え切れない。多くの命を見殺しにしてきた。また多くの命を犠牲にしてきた。意志を持って屠ってきたのだ。今更だ。今また、瘴気を中和するために、ルークと多くのレプリカたちの犠牲を彼は容認しなければならない。
彼らの命が失われようと、してもらわなければ困るのだ。
「だが、どうにも、やりきれんな」
溜息が零れる。自身を見定めるような紅の双瞳が僅かに驚き、いや困惑にか、見開かれた。だが、それは無用な心配である。ピオニーは空気を払う仕草で右手を挙げ、彼の部下に視線を遣った。死霊使いと二つの名をもつ男が、視線の先でそうとわからせないほどに身構える。
「命令が必要か?ジェイド」
静かな部屋によく通る低い声が響いた。現れた男の顔は既に決意の漲る為政者のものだ。汚濁も何もかもをのみこんで、血塗られた玉座に涼しい顔をして座する皇帝のもの。
「俺はどちらでもよい」
「いいえ、陛下」
死霊使いと呼ばれる男は首を振った。笑みさえ刷かれた口許が、ゆっくりと言葉をつむぎ出す。
「これは私が決めて、私がすることです」
すべて、私だけのものです。陛下にお渡しするつもりは、毛頭ありませんよ。
どこか愉悦の色さえ含まれた声音だと、長い付き合いであるから感じとってしまうのか。ピオニーは呆れた顔をする。
手出しするなと言われてしまえば、つまらない。
ケチだな。
当然です。
今度こそジェイドは振り返ることなく場を辞した。残されたピオニーは眉を顰めて口を尖らせた。そのあまい痛みを少し位わけてくれてもいいだろうが。ひとりごちる。まぶたの裏には愛しい面影の人々が棲んでいる。皇帝なんて本当につまらない。幼なじみのいなくなった部屋の中でつぶやいた言葉は、どこに辿り着くこともなく霧散して消えた。


―――

陛下はジェイドとルークが大好物です。

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