2009/02/22 (Sun) 001-03『夢見がちな死霊使いと子供の話』のサンプル

すこやかなるときも やめるときも '06/07/09発行。
アッシュとルークがシンクロしちゃって困った話。ED後捏造。えち。

■■■

 ほんとうはいますぐにでもそのくちびるにキスをしたかった。


***


 あの旅から戻ってきて一年。ルークの意識の中ではあの旅もまだ一年前の出来事のようであるのに、最後に彼らとエルドラントで別れたあの年から彼らのところに戻ってくるまでに二年も経っていたらしい。おどろいた。確かに言われてみれば、それだけの時間が経っていてもおかしくはなかった(おぼろげに覚えていることもあった)。だが、自分たちのそれはまどろみの中にいたといっても差し支えなく、その間に二年も経ったと言われても、やはり実感などは沸く筈もなかった。
 そう、傍らにある人に告げれば、そうですね、と笑みを浮かべられる、私も実感としては沸きませんが、確かに季節は二度通り過ぎたようですよ。その笑みに影はない。だというのに、うすら寒さを感じて、ルークは顔を上げた。その原因を見つけ出せまいかとまじまじとジェイドの顔を凝視する。どうかしましたか?と尋ねる口調はその異常さにはまったく気がついていないようで、ルークはなんでもないと首を振った。
 鈍感だからなああいつは、三年経っても相変わらずジェイドの執務室に入り浸っている皇帝陛下が癖のある笑みを浮かべてルークを迎える。まあ総じて鈍いんだあいつは、ジェイドには聞こえないように耳打ちをされた。
「まあ、おまえのいない間はな、世界から火が消えたようだった」
 大層なことを口にして、陛下はまるで子どもにするようにくしゃりとルークの赤毛を掻き混ぜる。まるで、だ。まるで世界全体がおまえたちの帰還を待って、息を潜めていたようだった。頭を撫ぜる陛下の行動が遠慮のないものになってきて、ルークはわわわとあせった声を上げた。話を聞くどころではない。だのに陛下はそもそも聞かせるつもりでもなかったのか、どちらも止める気配がない。まあ、大きく世界は変わったからな、多少どこもかしこも呆けちまってもしようがないがな、陛下が笑う気配がする。
「陛下もその一人でしょう」
 声とともに掻き混ぜる手がなくなったことにルークはほっと息を吐き出した。いつのまにか傍らに来ていたジェイドが陛下のいたずらを止めてくれたらしい。ピオニーが不満そうに鼻をならしている。
 ケチだなあおまえ。当たり前です。ルークにちょっかいを出すのはいい加減にやめていただきたいものですね。
 何度目になるのかわからないジェイドの進言であったが、陛下はへらりとした笑みを浮かべるだけだ。もともとジェイドもただ言ってみただけのつもりなのか、ぽいと掴んでいた陛下の腕を放りだして踵を返そうとした。だがルークがその服を取って引き止める。
「ルーク?」
「ジェイドも、ジェイドもそうだったのか?」
 帰ってきて、ジェイドの傍にいるようになってからずっと気になっていることがある。今はそれを聞くよい機会であるように思えて、ルークは聞いてみたのだが、ジェイドはなんとも微妙な顔をして自分の顔を見返してきた。それから、にやにやとした笑いを浮かべている陛下の方をちらりと見、息をつく。
「それを知ってどうします」
「どう、するわけじゃねーけどさ」
 ジェイドもそうだったよなあ、俯いたルークの傍らで応えはあっさりと別のところから返された。陛下、ジェイドがたしなめるようにピオニーを呼んだ。だが、ピオニーがジェイドのその意を汲むことなどほとんどない。
 こいつなんかはふぬけまくっていたからなあ、ジェイドの冷たい視線などものともせずに、むしろ楽しそうに陛下は口にする。研究成果とやらをおまえさんも見たんじゃないか?陛下の言に、ルークは悄然として目を伏せた。それは確かに見たけれど、まだ足りないところばかりのルークにはそれが進んでいるのか停滞していたのかなど判断できるわけがない。
 ああ、まあ、俺もわかるわけじゃあないが、ルークの憂いを吹き飛ばすようにピオニーは笑う、おまえさんにもわかるようになるさ、なあ。意味ありげに陛下がジェイドに視線を流す、これからはそばにいるんだからな、ぽんと頭に置かれた手は今度はあたたかさばかりを伝えてきたのだけども、それは一瞬のことだった。即座にジェイドが陛下の手を払い退けてしまったからだ。

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