2006/03/05 (Sun) #002-ルー君の場合

ジェイルク。えーと、ジェイドが苦しそうなのにどうしてどきどきしているんだ俺!!というルー君だったんだよ本当は。あ。キスまでだから大丈夫?


【ルー君の場合】


 例えば、間の悪い人間というのはいるものだ。
 この場合、飛んで火に入る夏の虫といったところか。


 ジェイドは現在の状況に頭を痛めていた。
 自由にならない体が先程より以上に苛立たしい。
 息を殺そうと噛み締める奥歯に力は入らず、熱の篭もる体はいっこうに治まる気配を見せない。薬で散らされた意識は考えをまとめることもできずに八方塞ともいえる現状にジェイドは溜息をこぼした。呼気すら熱の篭もったものであることを腹立たしく思う。

「まったく、ディストも役に立たない…」
「ジェイド?」
「なんでも、ありませんよ」

 大きく息を吐き出せば、それは思いの他辛そうに響いてしまったようだ。視界の先で彼の顔が歪んで、ああ、失敗したな、とジェイドは思う。思うが、どうしてやることもできそうにない。
 壁に背を預けて直接床に座り込んだままの自分は彼の眼にさぞ奇異なことに映る筈だ。心配させているのはわかっているが、それでもルークは今以上に自分に近づくことはない。先程、近づこうとした彼を厳しく牽制したからだ。

 そのままこの部屋を立ち去ってくれないだろうか。

 ジェイドはまず今の彼がしないであろうことを期待する。
 彼は意外と強情で、自分が口を開くのも億劫だと感じる今、とても言いくるめられるとは思えない。彼と自分しかこの部屋の中に存在しない以上、やはりその望みはかなえられないと考えるべきだろう。
 ディストに何かされたのではないかと心配している彼が、明らかに、常の状態ではない自分を置いて、みずからどこかに行く筈もないのだ。
 そうまで考えて嘆息する。
 本当に、するならするで最後まで面倒を見ていって欲しいものですねぇあの男は。自分に薬を盛るだけ盛って、さっさとルークに撃退されてしまったあの男を苦々しく思い出す。『よいのですか?』
 飛び込んできたルークを尻目にあの男は言ったのだ。
『彼がどうなっても知りませんよ?』
 勝ち誇った笑みまで浮かべていた。それはジェイドに対してと限られるが。
 おさななじみの腐れ縁のせいなのか、それでもあの男にしては珍しくジェイドの急所をついてきたのだ。ぎくりとした。
 そう、ディストが彼に何かをできるわけではない。そうではなかった。
 自分だ。今の自分のそばに彼がいることが危険なのだ。
 彼は、飢えた獣の前に飛び出してきた子ウサギのようだった。
 子供は無防備で無自覚だ。
 ディストは、そうと知って優位になった事を知ったのだろう。私以外にあなたを阻止できる人間はいないでしょう?と脅しをかけてきたのだ。今のあなたが自分を制御できますか?と。
 だが、子供はその真意を読み取れなかった。
 間髪いれずに彼はディストを撃退してしまったのだが、ジェイドは彼と二人、部屋の中に残された状況にこそ瞠目した。

「ジェイド?」

 子供はそんなこともわかっていない。
 控えめにルークが自分の名前を呼ぶ。ジェイドは困ったように立ち尽くすだけの彼をとっくに扱い兼ねていた。本当に。何もできない、何も分かっていないくせに、この子供はそばにいたがるから。
 このままでは埒があかない。
 困惑した今の子供の瞳には力がないから弱々しく見える。
 そんなふうに無防備な顔を自分の前で見せるだなんて。

 嘆息する。

「ジェイド…やっぱり俺、ティアかナタリアを呼んでくるっ」
「待ちなさい」

 痺れを切らしたらしいルークが踵を返そうとするのを引き止めた。呼んでやれば嬉しそうに駆け寄ってくる。
 ああ、本当に危機意識のない。
 目の前に膝をつく子供。むき出しの譜眼は必要以上に音素を感じ取ろうとする。間近で揺れる彼の音は薬が体に影響を及ぼす以上に、自分の中の何かを揺さ振るのだと子供は知らないのだろう。
 肩を引き寄せれば抱き込んだ腕の中で子供が慌てたように顔を上げた。

 ほら、そんなに無防備では、食べられても仕方がありませんよ。

 うなじに手を添えれば、驚いたようにルークが瞳をみはる。
「ジェイド、おまえ、熱…」
「だまりなさい」
 呼気の触れかかる距離にルークが息を呑んだ。そんなルークの様子に瞳を細め、ジェイドは唇をかるく触れ合わる。緊張したように震える唇を湿らせてやると、舌を直接絡ませた。ルークははなから抵抗を忘れてしまったようでなされるがまま、ただ懸命に受け入れようとしている。
 まだ彼はものなれない。
 徐々に深みをましていくくちづけに、彼の震える指がしがみつくようにジェイドの服を掴んで皺を作った。ルークの息が上がる。触れてしまえば先程まで感じていた躊躇いは幻のようにどこかに去ってしまった。
 この腕の中にいる子供はジェイドの獲物だ。
 舌なめずりする獣を確かにジェイドは感じた。喉が鳴る。
 身を浸すのは歓喜だ。
 ジェイドは彼の様子が変わったことを感じて、少しだけ解放してやった。
 すっかり力の入らなくなった体を持て余して床に座り込んだ子供は困惑したように眉を寄せている。
「どうしました?」
 その声にゆるい笑みが含まれていることなどこの子供は気がつかないだろう。
「なんか変、だ…」
 くらくらする、つぶやく子供にジェイドは笑う。
「私のキスにくらくらするんですか?それは光栄ですねぇ」
「な…ッ」
 違…!真っ赤になって否定しようとする子供にジェイドはますます楽しくてたまらないという顔をした。
「おや、違うのですか?」
「ち、がわないけど、でも、変…」
 だ、という言葉はふたたびジェイドが呑み込んだ。この子供は譜術を苦手とするくせに意外と敏い。いつものキスとは何かが違うのだと敏感に感じ取って戸惑っているのだろう。ジェイドの、子供がつぶやく。なんですか?キスの合間にとぎれとぎれにつむごうとする彼の言葉を聞いてやる。先ほどジェイドがそうしたように大きく息を吐き出した彼はつらそうに言葉を吐き出す。おまえの熱を、うつされて、いる、みたいだ…乱れる息の合間になんとか言葉を搾り出すルークにジェイドはますます笑みを刻む。
 ルークの印象はまちがいではない。
 キスを通して彼に自分の中の薬をうつしているのだから。
「でないと、あなたがもちそうにありませんからねぇ」
 私につきあってもらわないといけませんから。
 翡翠の目に欲情の彩が消えては現れる様をジェイドは目にも楽しんでいた。
 もうずいぶんと体は自由がきくようになっている。
「ジェイド…くる…し…」
「おやおや、もう根をあげるのですか?」
 呼吸すら満足にできなくなった子供が今にも泣き出しそうな声を出す。自分にさえ効く薬なのだから確かに薬に耐性のなさそうなルークにはきつすぎるかもしれない。ここいらが限界のようだった。
 もう少し、うつしてしまいたかったんですがねぇ。
 まばたきの拍子についに零れた涙を掬い取ると赤くなった目元にくちづける。せっぱつまったルークの声が、助けて欲しいと自分の名前を何度も呼ぶのが心地良かった。
「ジェイ、ド…っ」
 すがりつくようにしがみついてくる子供に小さく笑うと、彼の服に手をかけて、くつろげた胸元に手を這わせた。震える体を受け止めて、その耳元に唇を寄せる。
「まだきついと思いますが、頑張って下さいね?」
 こくこくとうなずくルークはその意味をわかっていないだろう。
 わからないまま同意するのは危険だと今度教えてやらなければならないかと考えて、これがその教訓になりますかねぇと笑いながら、ジェイドはおいしく据膳をいただいたのでした。

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あれ?

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