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2013/09/15 (Sun) 「passin’away」本文サンプル

20120922infoso009.jpg
■四国が壊滅した後の瀬戸内の話(not3ベース)。一部、「花の盛り」を加筆修正しています。

■■■


 元就は書を認めていた筆を止め、顔を上げた。
 気配に誘われるように視線を遣れば、元就の座している場所からもひとつ、今が盛りよとばかりに咲き誇る花の木があった。
 だがそれは、元就が此処に座す前から久しくそこにあったもので、今更改めて元就の意識を引くものではない。春の風が花を揺らしたか、花の蜜でも吸いに鳥がやってきたのかそれとも忍びか闖入者か、不意に感じた気配は悪しきもののようではなく、だが見過ごすにはあからさま過ぎるものだった。
 さて、何が己の意識を引いたものなのかと、揺れた気配の元を辿れば、花の下にあったのは、花を見上げる鬼の姿だ。風が吹き、目にも鮮やかな衣を揺らす。
 西海の鬼。鬼が島の鬼。
 そう呼ばわる男の姿に元就は思わず息を飲み込んだ。
 特徴のなにひとつ、他の者とは見間違えようもない。
 だが、鬼、と元就は無意識に判じていた。
 目を離すことができぬままに元就はただ鬼の姿を凝視する。かたりと手元で筆が鳴った。筆を硯の上に直したのは、無意識の所作だ。その音に、元就は我に返る。声を発することすら、忘れていたのだと気がついた。
「貴様―――そこで何をしておる」
 それでもまだ現がどこか遠いもののように感じられ、自身の声すらも、己の喉から発せられたものとは思えなかった。
 風の音がうるさい。元就は思う。これでは自身の声はもとより、鬼の応えも聞こえぬではないかと、元就は眉間に皺を寄せる。だが、元就の意識と反して、花は揺れぬ。衣も揺れぬ。ただ轟々と耳を覆わんばかりの轟音は、己の心の臓より発せられているのだと、元就は気がついた。だからといって、心の臓を止めるわけにもいかぬだろう。
 鬼は、そこで初めて元就が見ていたことに気がついたようだった。
「よお、毛利」
 まるで、まぶしいものでも見るかのように鬼は隻眼を眇めて、それからゆっくりと笑みを浮かべて見せた。その様に、元就は少しばかり違和感を感じた。鬼の特徴的な尖った歯も、笑みを浮かべた拍子に目に入る。我ながら、細部までよく見ているものだ、と内心苦く笑いが漏れた。鬼に気がついた様子はない。
 きれいなもんじゃねぇか、なあ、と鬼が笑う。笑ってみせる。


(中略)


 篝火を焚いた本陣の中で、緑色の大袖が、鈍く光りを弾いていた。策を得手とする男の指が優美な動きで地図の上をなぞってゆくのを、政宗はどこか感心した面持ちで眺めていた。
 半年前、長曾我部元親の四国が落ちた。
 瀬戸内はここのところ良好な関係を保っていた筈だと、誰もが記憶している。そこに横やりを許すとは誰も思いもしなかった。徳川が動いたのだ。急襲を受けた四国は壊滅、なによりも当主の長曾我部元親が討死した。
 そして徳川が西国に持ち込んだ火種は、あっという間に東国においても戦火を広げることになる。
 政宗が中国を治めるこの男の顔を見るのも半年ぶりのことだった。ひょんな縁からこの男と顔を合わせることになり、またその縁のために中国の毛利元就と同盟を組むことになったのだ。顔を合わせた途端にあんた変わんねぇなあ、と口笛を吹けば、貴様は老け込んだか、と相も変わらず平坦な声で返された。男の言は本気とも冗談ともつけられず、政宗は苦笑する。
 それはいい。まあそれはいいんだ。
 着陣した時から首裏がちりちりとするような感覚はあった。戦場では珍しくもないそれを、政宗は特別気にしてはいなかった。まあ、でかぶつがいそうだなと、そのぐらいのことだ。
 だがなあ、と政宗は思わず溜息を吐いてしまった。それに、地図の上の陣を示していた男の指がぴたりと止まった。あ、やべぇ、と思わず首を竦めた時には、男と目が合っていた。ただでさえ感情の薄い男の双眸が剣呑な光を帯びて細められるのを見る。
「貴様、聞いてるのか」
「Ahー、悪ぃ、毛利さん」
 完全に失敗した。両手を掲げて降参の意を示しつつも、政宗は男の背後から目を離すことができなかった。
「How strange…」
 敢えて、目の前の男には通じないであろう言葉を漏らせば、わかりやすく眉が潜められた。絶対わざとだ。政宗としても目の前の人には言えない分、誤魔化すように笑うしかないのだが、そんな戦法がいつまでもこの男に通じるはずもなかった。それもこれも。
(なんで、てめぇがここにいるんだよ!)
 力一杯叫びたいのをなんとか堪える。男の背後にいるのは、半年前に冥途に見送った筈の四国の長曾我部元親だ。毛利の背後に立っているとその居丈夫さが余計に目に付いた。銀髪に左目を隠す眼帯と派手な出で立ちは、あの男以外にありえない。
 まさか、生きていたのかと、一瞬そう考えたものの、毛利も本陣に詰めている兵たちも男の存在に気を払っている風ではなかった。壊滅状態であるとはいえこれでも四国の主だった男だ。肩書きなど抜きにしても、それだけの器もあった。少なくとも空気のように扱われる筈もない。小十郎にしても、注意は毛利本人にしか向かっていないようだった。


(中略)


 唇にやわらかな感触が触れている。
 ああ、またか、と思う意識はそれでもまだ微睡みの中に沈んだままだった。
 離れていこうとする熱を追うようにして、ようやく意識が現に引っ張り上げられる。元就は目を覚ました。間近で、金の瞳の男が元就を覗き込んでいた。思わず瞬きをする。その瞬きの合間にもまた唇が唇に触れた。だが、此度触れたのは一瞬のことで、男は身体を起こす。途端に視界が広がり、知らぬ部屋の中に寝かされているのだと気がついた。
 部屋の中には鬼と自分しかいないようだった。
 いかようにして人払いをしたのか、と元就はいつも思う。倒れて運ばれるのも寝かされるのも、初めてのことではなかったからだ。
 男はそっぽを向いている。その精悍な横顔を元就は見上げた。ふと息を吐く。すると、男が物言いたげな瞳を元就に戻したので、元就の方が先んじて声に出した。
「いかほど経った?」
「そう経っちゃいねえよ」
 あんたは明日の朝までここにいることになってっけどな。
「貴様、また勝手に」
 姿も見えず声を聞く者もいないというのに、この男は我を通してみせるのだ。どのようにしているのか元就が知らぬのは、元就の目の届くところではできない力なのではないかと元就は少し気がついている。鬼の力だ。この男は死んで鬼になったようなので、現の者とは違う理の中で生きているようだった。
 この男がこのように言うからには、この部屋から元就は出れぬようになっているのだろう。出られたところで、朝までは誰にも会うことはできないのだ。例え行き交うことがあるにしても、あちらの者が元就をそうと認めることができないようだった。薄気味の悪い体験にこうなっては元就も無理に足掻こうとするのは諦めた。鬼の言うこれは一晩が限界であるし、この鬼は本当に元就に不都合になることはしないからだ。
「動かぬ故、鬼」
 かろうじて顔は動くものの、身体の方は金縛りでもあったように動かなかった。これも鬼の仕業には違いなかった。言わずとも、元就の言いたいことはわかったらしい。
「駄目だ。寝ちまえよ」
 傍らに座ったまま鬼は元就を見ようともしない。
 まあ前科が前科であるだけに、そうであろうなと元就の方にも僅かばかり思うところはあった。今までに幾度かはそう言っては鬼の目を盗んで抜け出しているからだ。

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