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2013/08/16 (Fri) 「からから」本文サンプル

■チカナリ。あにき赤ベース。ちっさいやっさんが毛利さんの前に現れる話。

■■■


 天下分け目の戦より、一年のちの話だ。「なあ、毛利、やり直したいか?」と、声がした。見下ろすと、どこから入り込んだのか子どもがいた。廊下の先に立ち、元就を怯むことなく見上げてきている。山吹色の一風変わった装いには覚えがあった。とうに死んだ男だ。元就は、表情を変えず、つと立ち止まる。あの男をそのまま縮ませれば、このような姿の子どもになるのだろう。どちらにせよ、これは現のものではなかった。このように派手ないでたちの子どもが、毛利の奥座敷まで誰にも見咎められずに入り込めるものでもなく、ましてや元就になんの気配も気取らせずに、現われることなどできる筈もなかった。この男のこの姿は不相応でもある。この時分のこれは、仰々しく鎧兜に身を包み、槍を手にしていた筈だ。口でなんと言おうとも、家臣と戦国最強に守られるばかりの小童に過ぎなかった。
 ええと、あれ? おかしいな? ワシのことが見えていないか? 元就公? 子どもは首を傾げ、わかりやすく眉を寄せて、困惑した顔をした。見上げてくる。なるほど、これは見えていないものとして扱えばよいのだ、と元就は納得した。
 元就公? おーい、などと、両手を精一杯上げて、自らを大きく見せようと飛び跳ねる子どもから、元就は視線を外した。そのまま、何事もなかったように歩を進めようとし、思わず無言になった。右の足が重い。ちょうど今見た子どもにでもしがみつかれているような重さだった。「元就公」と声がして、元就は眉を顰める。見えていないのであれば、存在しないのではなかったのかと、誰にそう告げられたわけでもなかったのだが、元就は心中悪態をついた。だが、右足についてくる重しのことなど無視したまま、元就は部屋に向かう。すぱんと、些か乱暴に障子戸を開けることになったのはいたしかたのないことだった。部屋に入ると、不意に右足が軽くなる。急なことに、かえって思わずつんのめりそうになった元就は、畳をだんっと踏みしめた。なんの遊びだと不快になる。幸いなのは、ここで元就に声をかけてくるような輩がいないことだった。
だが、「はー、やれやれ」と声がする。「元就公は強情だなあ!」とあの子どもはすっかり部屋の中にまでついてきたらしい。連れてきたと言うべきか。頭の上に腕を組んで、うんっ、と子どもらしからぬ伸びをしている。目が合った。「ワシのことが見えているのだろう? 元就公」と笑顔で言われて、元就は黙ったまま床机の前に腰を下ろした。それから、ちらりと子どもを見、「去ね」と口にしてみた。物は試しだ。日輪の加護はまやかしなどではなく、元就に悪しきモノを近づけることはない。だが、これはもともと東照などと名乗っていた男だった。忌々しいことに、と元就は思う。日に照らされる部屋の中に悠々と佇んだままの子どもの姿に、元就はようやく溜息を吐いた。こちらが諦めたのを察したのだろう子どもの顔が、見るからに明るくなるのもいまいましかった。
「何用だ」
 この男と元就の間には、接点などなきに等しかった。もとより、西軍の企みなど知らぬままに、この男は長曾我部に倒されている。死後のからくりは元就にはわからぬが、彼岸にいけば知り得るものであるのか、そして元就の前に現われでもしたか、そもそもこれはあの男と同一のモノであるのかすら、元就にははかりようがなかった。ふと、重量があるのであれば、斬ることもできるのだろうかと身のないことに思い馳せること位だった。
 子どもは、やり直したくはないか、毛利、と訴えかけてくる。不可解ではあるが、応えは簡単だ。もとより、現でもないものの言を聞き入れるつもりはない、
「ないな」
 取り付く島もなく応えてやれば、「毛利」と子どもの姿をしたモノが悲痛そうに声を上げる。成りは幼く声も拙い、だがその語調はかつて東を纏めた将と同一のものだ。
「やり直したいかなどと、貴様、姿を見せる先を間違っておろう」
 元就はふんと鼻を鳴らした。
「あの鬼の前にでも現れてやることだ」
 外はあちらだと指し示す。あの鬼の前にこれが現れたとして、鬼は平静ではいられぬだろうと元就は思う。四国の王としての体裁は保っているものの、すでにあの男の行動は奇怪だ。端はこの男を討ったことからなのだろう。双眸に浮かぶ色を隠すように、元就は刹那目を伏せた。これを見て、あれは涙を流して喜ぶだろうか、怒りに駆られたまま、また殺そうとでもするのか、それとも化けて出たとでも恐れてみせるのか、鬼の反応はどれでもあり得るようでいて、元就には判別がつかない。ただやり直したいのかと聞かれれば、あの男は応と答えるのだろうとそれだけは思う。
 子どもは、項垂れた様子で頭を振った。恐らくは、端から見れば胸が痛むような子どものしょげた様子も、生憎中身があの狸のままなのだと知っている元就には何の痛痒も与えなかった。「元親にはワシが見えなかったんだ」と告げられる。あの鬼め、と舌打ちしたくなる衝動の方を元就は堪えた。
「我も見えぬぞ」
 嘯けば、「毛利は、見えているだろう?」と、子どもが下から元就の顔をのぞきこむようにして身体を傾げる。「我が見えぬと言えば、貴様はないものだろう」
 元就が断じても、狸はあわてる様子もなく「だが、毛利には見えているだろう? 日輪のご加護だな」と笑う。元就は思わず言葉に詰まった。そんなものはいらぬ、とは戯れにも口に出せる筈がない。仕様がなく、目の前の子狸を睨めつけた。勿論、本当の幼子のように、これがその程度のことで怯むはずもない。無言の間。そよりと風が開け放した庭より入り込む。ここはあくまでも現なのだ。
 これを追い出す算段を、と元就は息を吐いた。
 各所で恨みを買っているだろう自覚はあれど、化けて出てきた者など、元就はいままで目にしたことはなかった。これは、織田や北方の地にある亡者とは、恐らく違うものなのだろう。では妖の類だろうか。確かに、子どもには薄い影のひとつもない。狸は人を化かすものではあるが、やり直したいかなどと、元就は反芻し子どもを見た。目が合った。元就は子どもを眇め見る。
「やり直したいのは、我ではなく貴様の方であろう」
 もしくは鬼か。
「愚かな狸が今更、世の理を覆すことを願うつもりか」
 言い放てば、子どもは困ったように眉を寄せて、唐突にその場に座り込んだ。あぐらを掻く。その動きには聊かの躊躇いもなく、所作はあくまでもあの狸のままなのだと、余計に元就に感じさせた。視線の低くなった子どもが、身を乗り出すようにして片手を床に着き、まっすぐに元就を見上げてくる。「過信と言われれば、その通りだ。あれはうまいやり方ではなかったなあ」と頭を掻く。ワシにとって、元親は、と子どもは言葉を切りつつも顔を上げた。「元親は、子どもの時に会ったままの、大きな男だったんだ。元親であれば、拳を交わせばわかりあえると思っていた」思い違いがあったと言えば、鬼の怒りの凄まじさだろう。ワシは元親の怒りを受け止められると思っていたし、まさかあいつが本当に、ワシを倒そうとするとは思ってなかった。「なあ、毛利。ワシはあんな元親は、見たくない」子どもが、頑是無い強さで元就を見詰めるのと、ゆらりと空気が揺れたのは同時だった。鬼がやってきたのだ。
「よお、邪魔するぜえ」
 僅かに身を屈めて入ってくるその姿を子どもが振り向いて見つめる。あからさまに曇るその表情に、元就は知らず皮肉げな笑みを浮かべていた。
「あれ? あんた一人か?」
 戸惑った顔を見せる鬼に、さようだが、と元就は素知らぬ顔で返す。この子どもと話している声が聞こえでもしたか。障子戸は開け放したままだった。だが、この鬼が、童を見えぬというのは真のことらしい。
 ふと、元就は男から視線を逸らし、庭先を見た。そこに恵む陽光に変化はなかった。だが、この男が現れた途端に、日が遮られでもしたように室の中が翳ったように感じられた。恐らくは、体感的なものだ。ふと、鬼が現れれば、外を見やるのが、半ば習慣化したものであったことに元就はこの時気がついた。常より察していた変化を、目の当たりにしたのがこの時だった。恐らく、鬼の体格のよさだけが、その原因ではあるまい。
 外を見て、わずかに双眸を眇めた元就を、気がついたか、と子どもが助けを求めるように見上げてきていた。これなのだといわんばかりだった。なるほど、こんな有様では、この子どもの姿など見える筈もなかろうと、元就は理解した。これは鬼自身が纏う焔の生み出す影だからだ。自らを猿だという、これもまた焔の影として生きていた者がいたことを、ふと元就は思い出した。あれと同じだ。同時に、この男が執拗に元就のもとに通おうとする理由の一端を理解したような気になった。夜の闇の中、蛾が炎に誘われるのと同じことだ。自らの生み出した陰に目を塞がれて、この男は寄るべく光を惑うているのだと。その哀れさに笑みが漏れた。
「忍びかよ」
 見咎めたらしい男が顔を顰めた。確かに、思い出したのは真田の忍びではあるが、まさかこの男内心を読めるわけでもなかろうに、と元就は男を見た。この男は妙に勘がいい。
「なにゆえ」
 立ったままの男を見上げながら問えば、あんた、と口元を覆い、男はすこしばかりうろたえたように視線をさまよわせた。長曾我部、と促せば、男は乱暴に目の前にしゃがみこんだ。目が近い。金色のひとつ目が元就の双眸を掴んで離そうとしないようだった。こくり、と喉が鳴る。それは、男のもののようにも、自分のもののようにも思えて、元就は息を吐いた。それにつられたように、ようようと男が口を開く。
「…あんたよう、何か企んでるみてぇな顔をしてるじゃねえか」
 男は苦虫を噛み潰したようなしかめっつらをした。そのように苦い顔をする位ならば、ここを訪わなければよいのだろうにと、そう思考が形どる前に近づいた唇に自身のそれを塞がれてしまった。

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