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2013/04/29 (Mon) 「からみち」サンプル

20130425tikanari.jpg
■鬼のあにきと転生毛利さんのその後の話です。見知らぬ部屋で目覚めた元就は記憶を失くしていて…。単品でも多分大丈夫だと。

■■■


「やさしい男だよ」
 男が遠い記憶を懐かしむように双眸を細めた。唐突に、何かが口をついて出そうになった。胸がざわりと騒ぐ。
 ああ、そうか、まいったな、と男が突然困ったように顔を曇らせた。
「おまえははじめてではないな。接吻も、セックスも」
「な…っ、な…」
 記憶はないのだ。もとより元就にその正否を答えられるはずもないのだが、言われた内容に、思わず開いた口が塞がらない。だが続けられた言葉の方が更に酷かった。
「元親からおまえを寝取ることになるのか」
 それは困ったなわし。
 本気で困った様子を見せる男の太い首に、むしろ今すぐ死ね、と元就は手を伸ばすところだった。
 鎖の音と炎の熱。
 聞いたばかりのそれらを確かに感じたのはその時だ。



 元就は顔を上げた。
 くる、と思ったのは、恐らくその場にいた誰よりも元就が早かった。
 だが、何が?
 自身でもわからない感覚に元就は眉を潜める。男の方も元就の様子に何かを気付いたようだった。どうした、と問いかけようとした男も、ぴくりと反応して庭を見る。
 不意に、轟音とともに庭に風が渦巻いた。炎が巻き上がり、風に煽られて広がる。じゃらりと鎖の音がしたかと思えば、黒い影が飛び出して、燃え上がる炎の中に飛び込んでいった。重い金属のぶつかり合うような音がする。同時に重い風の塊が、二人の方まで吹きつけた。堪えきれずに部屋の奥まで転がりそうになった元就を、男の腕が掴んで支えた。
 視界が明ける、銀髪の男が二人、武器を構えて立っていた。いたのは、大柄な男と長身の男だった。碇のような槍と細身の刀を互いに打ち合っていた。武器の形は特殊だ。どちらも身体に具足のようなものを身につけている。だが、大柄な男の方が、些か露出が高かった。肌着もなく身につけた具足にどれだけの効果があるのか、と元就は思う。男はまた上も短めのものを羽織るばかりだったからだ。顔の半分は眼帯に覆われていたが、なにより特徴的なのが、頭に二本の角があることだった。
 だがそれは長身の男の方にも言えた。角のある人間もいないが、獣の耳と尻尾のある人間もいないだろう。男は刀を引き、再度打ち合う。器用に動くものだと思わずそのしっぽを目に追っていると、下で男が動く気配がした。まだ男の身体の上に跨ったままであることを、元就は正直忘れていた。男が元就の下から身体を抜け出して起き上がる。
「三成はかまいたちだ」
 それでは三成とは耳と尻尾のある方だろうと知れた。かまいたち、元就は口中でつぶやく。それは温度差で皮膚が裂ける現象をそのような怪異の仕業であろうと人が名づけたものだ。ふと気付いて、元就は顔を歪める。自分のこともわからぬのに知識ばかりがあるのも、逆に不快なものだと思ったからだ。
「…それは実在せぬものだろう」
「存外、わからんさ」
 だって、ほら、鬼もいる、と男が庭を見ると、石田? と鬼の方が叫んでいるのが聞こえた。それに眸を眇めて、ああ、と男が元就に視線を戻す。元親にも記憶があるのだな、確認するように問われたところで元就には何のことなのかわかる筈もない。ただあの鬼が我が呟いた名の主なのかと思うばかりだ。
 やはり、おまえにもあったのだろうなあ、男はひとり納得し、軽く笑みを浮かべながら、呟くようにそう言うと不意に立ち上がった。その姿を見上げる。それに元就が疑問を口にする間もなかった。
「元親!」
 鬼がこちらに顔を向けると、大きくその一つ目を見開いた。家康っ? 驚いたように叫ぶ男に元就は思わずあっ、と思った。その瞬間、鬼に隙ができたからだった。対峙する男は速かった。元就が思うのと、鬼がいてぇと声を上げるのは実際にほぼ同時だ。ごとりと鬼の腕が庭土に落ちた。元就は目を瞠り、息を飲む。腕を斬られた鬼からは人と同じように赤い血が飛んだ。三成、と呼んで男が庭に降りた。三成と呼ばれた男の刀はその一太刀で収められ、鬼の方にももう戦意はないようだった。
「すまん、元親。大丈夫か」
 男が鬼に近付いていく。鬼は斬られた左腕を拾い上げながら、苦笑している。油断したなあ、この位たいしたことねぇよ。
 元就が驚いたのは鬼が無造作に拾った腕をくっつけたせいだ。そのまま目を閉じてしばらくじっとしていた鬼がやがて手を離しても、切り落とされた筈の腕は落ちてくることがなかった。更に、まあこんなもんだろ、と指を開いたり閉じたりしている。
 すまんなあ、と再度謝る男に、これくらいどってこたぁねぇよ、と鬼が気のよさそうな笑顔を見せた。現れたときの恐ろしげな顔とは大違いだ、と元就は思う。
 元親は鬼になったのか、男が鬼を見上げて明るい声を出す。ああ、家康は、とじろじろと鬼は見下ろした後に、人間か? と顎を擦りながら首を傾げた。どうにも断じがたいという顔をしている。男の方も笑って、ああ、そうだなあ、大体人間だ、と不明瞭な応えを返すものだから、鬼の方もなんだそりゃ、と呆れたように返したようだった。
 すまんなあ、わしにもようわからんのだ。
 男が困ったように苦笑しながら言うと、鬼の方が大きな身体を慌てさせた。すまねえ、そんなつもりじゃねぇんだ、と弁解するように両手をあげる。三成はかまいたちだぞ、男の言う言葉を俯いた鬼は聞いていないようだった。元親? 男が下を向いてしまった鬼の顔を覗き込もうと首を傾げると、鬼はがばりと顔を上げて勢いよく土の上に膝をついた。
「すまねぇッ、家康っ」
 今度は勢いよく頭を下げる。所謂土下座のようなものだ。興味はないが、家主に許可もとらずに場を辞するわけにもいかぬ元就は、ただ見ているばかりだった。どことなく湧き上がる不愉快な思いも所以がないと押し込める。この場では誰も元就のことなど気にしていないのだから、気付かれずにいるのも簡単だった。
 突然どうした元親、男もまた片膝をついて腰を落とす。手を差し伸べる男に、鬼は頭を振る。俺は、おまえを殺しちまった、腹の底から絞り出すような声だった。元就は双眸を瞬かせる。男は生きていると思っていたのだが、死んでいるのだろうか。元就は顔を上げぬ鬼に困ったような顔を向けている男の方を見る。別段身体のどこかが透けている様子もなかった。
「それは仕方がない元親、気にすることはない」
「違う違うんだ」
 鬼が今度こそ大きくかぶりを振った。
「俺ぁ、おまえが四国を壊滅させた張本人だと思っちまった。おまえがそんな卑怯なことする筈ないのに俺はよぉ。友のおまえのことを疑って。おまえの話をろくすっぽ聞きやしねぇで…、おまえは最期まで俺のことを心配してくれたのに」
「あれは、わしも、な。わしもおまえの怒りを受け止められるつもりでいたのだ。恥ずかしい話だ。だが、力が及ばなかったのであれば、倒されても仕方がない。おまえが謝ることじゃない元親」
 誤解は解けたんだろう?
「おまえじゃなかった」
 ならよかったさ。もう昔のことだ元親。顔を上げてくれ。男が鬼の肩に手を置くと、鬼の身体がびくりと震えた。元親、とあの男が独特の調子で呼びかけると更に大きく身体を震わせた。顔を上げてくれ、男がもう一度告げると鬼の頭が恐る恐ると言ったように上げられた。男は笑みを浮かべている。子どもを安心させるような笑みだ。実際、鬼の仕草は母親が怒っていないことを確認するような子どものそれだ。顔を上げた鬼が、家康、と声を上げた。家康家康と膝立ちをした鬼が、男の身体を抱き締めて号泣した。まるっきり、と考えて、元就は顔を顰めた。関係のないことだと思った。少しずれて柱に背を凭せ掛ける。目を閉じると膝にあたる日の光が温かかった。陽気に誘われる。ちらりと見た限りでも花の多い庭だった。いい季節なのだろう。そこには男と鬼と人間じゃない男がいる。かまいたちと言っていた。家康と元親と三成だ。鬼はいまだに泣きやみそうな気配もなかった。いい加減に、と思いながらも、元就は意識が沈み込んでいくのに任せてしまった。



 目を覚ましたのは『元親』の腕の中だった。覗き込んでくる元親の顔に、現状が理解できずに元就は二、三、瞬きを繰り返した。思わず眠り込んでしまったのだろう、元就がいるのは最初に目覚めた部屋の中だ。畳の上で、だが半身はあぐらを掻いた元親の太腿の上にあった。頭は腕に支えられて、元親の広い手が髪を梳くように頭に差し入れられている。よお、と間近で笑う元親の犬歯が人よりも尖っているのが目に入る、起きたか、問う声は向けられているこちらが気恥ずかしくなる程やさしかった。さっきまで子どものように泣いていた鬼とは別人のようだ。その隻眼もそうだ。やけにやさしく眇め見られては居た堪れない。その白髪にも見える銀の頭に目をやり、ふと気付く。
「おに」
「おう、なんだ?」
「ツノはどうした」
 おにと呼びかけて応えるからには、これはあの鬼なのだろう。だが、頭の上にあった二本のツノが今はなくなっていた。ツノがなければ、人とまるきり区別をつけることができない。あれは夢だと言われれば、納得してしまいそうだった。実際に、寝過ぎたときように頭が重かった。このまま目を閉じてしまいたいし、起きるのも億劫だった。
「隠してんだよ」
「何故」
「あんたが俺のこと、覚えてないから」
 意味がわからなかった。
「昔のことの方も覚えてねぇってなあ」
「昔」
「そう、昔のことさ」
 あの男よりもなお、元親の言の方が理解しがたかった。そこであの男のことを思い出した。
「あの男はどうした」
 何故、この鬼と二人きりで残されているのか、ましてや抱かれて眠っていたのか。体勢に、不意に気恥ずかしさを覚えて元就は起き上がろうとした。その腕を元親が自然に掴む。無理なく腕の中に引き寄せられて、こめかみに顔を寄せられた。触れるくちびるの感覚に、元就は俯いて息を飲む。家康か? 元親はそのまま耳元にくちびるを寄せるようにして、話した。あいつなら、そこにいるぞ、と外を示すのに元就は顔を上げる。どれだけ眠っていたのか定かではなかったが、いまだに日は高いようだった。その縁側に姿はないが、あの男のような影があるのが見えた。心臓が大きく跳ねる。
 いつから、と問う声が擦れた。
「ずっとだなあ」
 ちゅっとくちびるに触れたやわらかいものが音を立てて離れた。一瞬のことだ。元就は大きく目を見開いて元親を見た。ん? と男はとぼけたように笑って、もう一度顔を近づけてくる。
「ッちょっ……とッま、て…っ」
 待たれなかった。離れようとした両手は掴まれてもう一度キスをされる。近付く顔にぎゅっと目を閉じた後、一瞬触れられてそれは離れた。目を開けると間近に男の顔があって、もう一度、目を瞑る。元親はおかしそうに笑って、まぶたの上にくちびるを落とした。
「目ぇ閉じちまっていいのか?」
 もっとすげぇことされちまうかもしれないぜ、その言葉の方だろうか、それとも低く囁かれた声音の方にだろうか、ぞくりと身体が反応するのがわかった。
 思わず、目を開ける。青い眸が面白そうに元就を見ていた。鬼のひとつ眼は青い色をしているのだ。元就は初めて気がついた。鬼なのに、銀髪に青い眸、精悍な顔立ちはむしろ外の国の血を彷彿させた。よく見てみれば、鬼は最初に見た時のように具足を身につけてはいなかった。元就と同じような長襦袢を、だが襟元を大きく広げて身に纏っている。枕にしていてもどおりで痛くない筈だと元就は妙に感心した。
 それから、感心している場合ではないことに気付く。
「貴様等は、なんなのだ」
 なにが? 元親が楽しそうに眸を眇める。
「セックスをしろと言ってきたり、キスをしてきたり」
 セックス、元親がつぶやいた。ぽつりっと言葉が浮くようだった。その声音は驚いたと言っていた。目を丸くして見下ろしてこられると、途端に元就はいたたまれない心地になり、首を竦めた。どきどきする。俯いて、元親から身体を離そうとした。わ、我の勘違いであればいいのだ。ごにょごにょと口の中で呟く。勘違いであるものか、と思う自分もいるのにどうしたことか。セックスをしようと言われたのも、まさに今キスをされていたのも本当のことだ。だが、急に、それこそ急に、元就は恥ずかしくなったのだ。
「顔が赤い」
「言う、なっ」
「恥ずかしいのか?」
「言、う、なっ」
「セックスとか言うの」
 いくら離れようとしても元親の身体はびくともしなかつた。逃げられぬのならばと、腕の中で縮こまろうとする元就を簡単に捕まえて、耳元で囁いてくる。思わず、ぎゅっと目を瞑った。
「あんた、かわいいなあ」
 ぎゅうと抱き締められる。胸板に顔を押し付けられ、後ろ髪を首筋から掻きあげられると、ぞくりと背中が震えた。
「はな、せっ」
「ダメ。あんたは俺とセックスするから」
 口が閉じることを忘れて開いた。

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