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2012/12/22 (Sat) 「四月馬鹿」サンプル

AprilFool4C.jpg
■毛利赤ルートのその後と転生の話。


■■■


 どうして、と聞かれても困るのだ。
 自宅近くの公園で実際に元親は困っていた。溜息を吐きたい気持ちをひたすらに堪える。目の前では女子が泣いている。同世代の中では体格のいい元親に比べれば当然小柄だ。俯かれてしまえば頭しか見えなくなってしまうものの、かわいい方の部類の女子だった。そして恐らくはその心優しいお友達とやらも近くに隠れていて、こちらを覗っているに違いなかった。ここで溜息など吐こうものなら、彼女たちに囲まれて、非難の集中砲火を受けるのがオチだ。同じことを何度か繰り返していたので、元親としてはもう懲り懲りだった。告白なんて何もいいことなんてない。うっかりそんなことを口にして、男友達にも恨まれるし散々だった。
 はやく諦めてくれねぇかなあ。
 元親は思う。元親の心は既に決まっているのだ。やはり小柄で同じように見下ろすとはいえ、あいつは男なんだなあなどと、泣いている彼女を見てあの男のことを思い出している元親が彼女に心を動かすことはない。そういや、心は動かぬ、未来永劫に、とかあいつそんなことを言っていた時があったなあ、と思い出す。あれはいつだっただろう。日輪が好きでおうちが大事で国が大事で、決めたことはすべて背負って生きたような男だ。元親はそんなあの男のことを好いていた。過去世も現世も、ようやく会えたのだ。手放す気も離れる気も元親にはまったくない。
 そうだな。心は動かねぇなあ。
 顔を上げたのも目が合ったのも偶然だった。明らかに告白シーンとわかる修羅場に何度か通行人がちらりとこちらを覗っていくのも気配でわかっていた。仕方がねぇなあと思う。だが、それがあの男であれば別の話だった。
「やべっ」
 思わず、声が出た。血の気が引くのが自分でもわかる。心に疚しいことなどひとつもない。ただこれはあの男に見られてよいものじゃなかった。こんな自宅近くの公園などで待ち伏せをした女子に途端に恨めしい気持ちが湧きあがる。優先順位は端から決まっているのだ。
「なぁ、俺、もう用事あっから」
 帰んぜ、と一方的に告げれば、女子が驚いたように顔を上げた。何かを言われる前に、元親は男が消えたのとは逆方向から公園を抜ける。多分あいつはこの公園を抜けて帰る予定だったのだ。随分と前にそのルートを教えたのは元親だった。ああ、本当に間が悪い。元親は走りながら毒づいた。単純に追いかけるよりも、先回りをして待ち伏せる。そんな風に意表を突いた方があいつ相手にはいいのもわかってた。そのためには多少なりとも全力で走る羽目になり、あいつの住むアパートの前についた時にはぜえはあと息があがっていた。鞄が邪魔だが放り出すわけにもいかない。はっ、と膝に手をついて息を整える。角を曲がり、あいつが現れたのはすぐだった。よお、と顔を上げて笑いかけると、あいつは少し驚いた顔をした後に、呆れたように溜息を吐いた。
「貴様、ここで何をしている」
「…はっ、あんたがまた余計なこと考えるんじゃないかと思ってよお」
 階段をあがっていく元就の後を元親も当然のようについてあがる。部屋の鍵を開ける元就を見守っていると、貴様、あがっていくつもりか、と視線で問い掛けてくる。当然だ、と勉強道具も入っている学校指定のスポーツバックを示して見せれば、元就はなんとも言いがたい表情をして溜息をまた吐いた。


* * *


 今生初めて相見えた時にこんな筈じゃなかった、とあの男は言ったが、そんな筈じゃなかったと言いたいのは元就の方だった。
 だってよお、も何もない。玄関に押し倒されて、顔を見ながらぽたぽたと泣かれる。男に、などという状況は、元就の短くも長くもない生の中では初めての経験だった。恐らく前の生でも、覚えている限りではないと思う。もし万が一経験があったとしても、相手は恐らくこの男に違いない。自分にそんな風に触れてくるのは後にも先にもこの男しかいないからだ。
 あれも春の話だった。大学生になったばかりの元就は、この町に引っ越してきたばかりだった。一人暮らしも初めてのことだ。
 ドアを開けた途端に玄関に押し入られた。
 越してきて早々に強盗か、と身を固くしたのは一瞬だ。すぐに反撃すべく脳が勝手に覚えている動きをなぞろうとする。だがその前に元就、と名を呼ばれた。思わず反応したのは、その声音に覚えがあったからだ。元就の名をかつてそんな風に必死に呼ぶ男がいたからだ。
 確かめるために振り向こうとしたのと、男が肩を掴んで元就を振り向かせようとしたのは同時だった。あっ、と思った時には、足が縺れてバランスを崩していた。倒れる、と思った元就を庇ったのは押し入ってきた男の方だった。狭い玄関に男が二人倒れ込む。いてぇと声を上げたのは男の方が先だった。閉まるドアも銀髪も元就は瞬きもせずに視界におさめていた。彫りの深い顔立ちも左眼に眼帯をつけているところも以前のままだった。鬼が目を開ける。みるみると見開かれていく眸は青いもので、元就は息を飲んだ。幾度か鍔せりあった時にまみえたそれが長曾我部の本来の眸の色なのだと知っている。だが元就にとって馴染みが深いのは金の瞳の方だったからだ。長曾我部、と声を発する間もなく、がばりと勢いよく男が身を起こした。だが男というには幼い。そんな風に観察している間にも、毛利! と叫んで抱きつかれた。勢いだけはあるそれに、玄関に寝転がったまままったく身動きがとれなくなってしまう。元就元就とそれはその言葉しか知らぬようにひたすら繰り返してしがみついて来る。正直に言ってしまえば些か異常だ。ドアが閉まっていてよかったのか、外に助けを求めるべき状況であるのかも、元就としては判断がつかなかった。それになにより元就とさして変わらない体格であるこれは学生服を着ているのだ。つまりこれはまだ子供なのだ。放り出されたままのスポーツバッグには校章と学校名が書かれていて、元就は思わず二重の意味で眉を顰めた。この男はどうやら中学生であるらしい。
「長曾我部」
 その名を口に出すのは久しぶりだ。過分に溜息混じりの声になった。それすらも懐かしかった。およそこの男の名を呼ぶような時には溜息を吐きたくなる気分のときが多いということだ。名に反応してか、ぴくりと男の肩が震える。いや、と元就は嘆息したい心地になった、男というにはこの男のそれはいまだ成長途上のものであると、かつての姿を見聞きしている元就は判じてしまう。己がこれ以上さして背丈も伸びることのないように、この男はこれからまだ大きくなるに違いないのだ。顧みて、元就は溜息を吐いた。
「…長曾我部」
「おう」
「何故、泣くのだ、貴様」
「仕方、ねぇ、だろ…止まん、ねぇ…っ」
 ぽろぽろと顔の上に涙が落ちてくるのを不快と言ってよいのかどうか。かつての鬼は元就を押し倒した体勢のまま自分で顔を拭うこともしない。元就が仕方なく頬に触れると、鬼の目がびっくりしたように瞬いた。その拍子に溜まっていた涙が指を濡らしたもののそれ以上に溢れてくることはなかった。意表を衝くことには成功したらしいと、元就は安堵の溜息をこっそりと吐いた。
「泣きすぎだ貴様は」
「そう、は言ってもよお、俺はもうあんたに逢えないんじゃねぇか、とよぉ」
 ひくりと喉が震えるのは、また気が昂ぶってきたからに違いない。さて、どうしたものかと考える前に、ひしりと腕の中に抱き締められた。元就ィ、と縋るような声の響きに元就としては眉を寄せるばかりだ。今生では初めて会ったのだ。少なくともこの男にこのような態度をとられる覚えは元就にはなかった。それは過去の世においては、多少懐かれたであろう記憶はあったとしても、それはそもそも誤解なのだとこれに告げてやるのが果たしてよいことなのかどうか。
 その時元就は完全に考えに気をとられていて、周囲への警戒を怠っていた。泣いている子供が自分に何かをできるわけもないと高を括っていたとも言える。だからくちびるに触れてくるやわらかなものを元就は最初それがなにかわからなかった。触れていたものが離れて、やけに近い鬼の顔を元就はまじまじと見詰めた。やはり記憶にあるものと比べても、幼い顔立ちをしている。だが、何か埋火のようなものがその青い眸の奥に揺らめいて見えた。その欲を元就は知っている。
「なあ、気持ち悪くないか?」
 俺に触れられて、とまたやわらかなものが触れてくる。その生温かくやわらかいものがこれのくちびるであると、二度触れられて元就はようやく理解した。まだこちらの様子を覗っているのか、触れ合わせるだけの軽いものだ。それでも、くちびるがじんっと痺れたように感じて、元就は微かに双眸を眇めた。中に過去世の記憶を持つせいか、これももう十分に男なのだと元就は理解した。ましてや興味のある歳頃ではある筈だ。それが男である自分に向けられるのは過去世をこれが引きずっているからに違いなかった。思い出したのがいつとは知れぬが、混乱して別がついていないのだろう。この男がまだそのように我を求めるのであれば、誤解は解いてやらねばなるまいと、そう意識した途端、ふっ、と胸の奥に痛みのようなものが過ぎった。
 元就、と呼んでくる男の顔を元就は見上げる。恋情がわかりやすくその顔には滲んでいた。かつてのあの男と同じ顔だった。ああ、と内心で溜息をこぼす。今生の自分が、ただ祈るように望んでいたことに元就は気がついてしまった。
 叶うのであれば、自分はこの男に会いたくはなかったのだろう。
 目を閉じる。誘うように見えたのか、くちびるが触れてくる。舐めたい、と思う衝動を元就は堪えた。触れたい、と思う。その衝動を逃がすように、そっと元就は息を吐きだした。この男の身体に触れることを、好んでいたのはかつての自分だ。いつからそうなったのか。元就に好きな触れてくる鬼に対抗してのことだったのか、きっかけは定かではないにせよ、触れたいと、実際に鬼の姿を目の前にして忘れていた筈の衝動を元就は思い出した。じわりと身の内に拡がる。これはあの鬼なのだ。だがこれは、かつてのあの鬼ではないのだと、薄く開いた眼の中に捉えた瞳の色に、元就はまた目を閉じていた。男に抱き締められてキスをされている。元就はそれを厭わしいと思うことなどできなかったのだ。



 かたりと戸が鳴った。
 小姓かと顔を上げると、開けた戸を背に立っているのが白銀の鬼で驚いた。表情には出さぬ。その気配を小姓と取り間違えたことに元就は驚いたのだ。鬼は後ろ手に障子戸を閉めると床机の前に座る元就に近付いてくる。元就が気付いてしまえば遠慮がないのか鬼が一歩を踏み出すたびに床が軋んだ。その音を聞き逃すほどに考えに囚われていた覚えもなかった。故にこの男は気配を忍んで、この室へとやってきたのだろう。つまり戸の音を立てたのもわざとなのだ。確かに気配を忍んでそれ以上近付かれていれば、刃のひとつも見舞ってやるところではある。正気ではないくせに、賢しい。
 これは相手をしてやらねばならぬのだろうな、と元就はひとつ息を吐くと筆を置き、鬼の方にと向き直る。
 夜になると徘徊する鬼の噂は聞いている。害はない。ただ気のすむまで徘徊し、気になる一点をじっと見詰めているのだという。気が済むと褥に戻る。昼の鬼に徘徊の記憶はない。それだけのことだ。遭遇したのは初めてのことだが、元就が大坂の城を離れられぬ理由がこれと石田にあった。大谷の亡き後、この男が生来の世話焼きの気質で石田の面倒を見ているのだ。
「何用か」
 燭の火がゆらりと揺れて鬼の表情を映し出す。鬼の面にはなにも表情と言えるものが浮かんでいない。間近に立った金の瞳がひたりと元就を見下ろした。
「ああ、あんたに聞きてぇことがあってよぉ」
 これは正気か。そのまま腰を落とした鬼の間近さに元就は柳眉を寄せる。膝を突き合わせるよりも更に近い気がするのは、元就が正座であれどあれは胡坐であるからだ。互いの喉元にも簡単に手が届く。それほど間近に寄られては、否応なく体格差を意識せずにはいられなかった。視界は鬼の身体で埋まり、その向こう側を窺がうことが叶わない。

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