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2012/09/10 (Mon) 「かえりみち」サンプル

20120904kaeri.jpg
■毛利青ベース。戦国の記憶のない鬼のアニキと転生毛利さん。
「おとおりみち」「とおりゃんせ」「細道」の後の話で、これにて多分ひとだんらくです。

■■■


 風の強い日だった。大粒の雨が屋根を叩いて、遠く雷鳴が時折響いている。元親は濡れるのも構わずに家の前に降り立った。当然のように傘などない。ごうっと頭上で風が通り過ぎる。招かれなければ、元親は家の中に入れない。あいつは気が付くだろうか。ぽたりと濡れた髪から水滴が落ちる。ドアが開いたのはその時だった。目が合った。やはり貴様か、とそれが言う。確認する前に開けるなど無用心にも程があるなと思いながら、ああ、やっぱな、内から開かれた扉に元親は笑った。
「なあ、話をしようぜ」
 そう言葉にすると、かつての謀神を幼くしたようなそれは、その遠い前身を彷彿とさせるような仕草で元親のことを見返してきた。
 恐らくは、本人が思うよりも尚、かつてのこれは視線で語る男だった。今も実際、言葉を発するよりも先に、無為なと視線が告げていた。
「貴様と我の間に、何を語るべきことがある」
 その先触れどおりに薄いくちびるが開かれる様を元親は思わず見守ってしまった。微かに眉を寄せたその様に、やはりこれの中にいるのはかつての謀神なのだろうと、元親は確信する。
 ざわりと血が騒ぐ。
 こいつとは、これがまた指摘して見せたように、語らうよりもむしろ互いの得物を手に戦うのが愉かろうと、内の獣が舌なめずりをする。
 戦うのも楽しい。気の合う奴等とは、戦い終わった後には盃を交わして語り合うのが常だった。だが、かつて謀神と称されたこの中国の主とは違っていた。他の誰よりも多く刃を交わしていながら、これはいつまでたっても元親にとって虫の好かない男のままだった。戦い様ひとつとっても気に食わない。だが、何度でも、憑かれたように相手をする機会には事欠かなかった。元親自ら厳島に赴くこともあれば、瀬戸海での諍いには必ずと言っていいほど毛利自身が出向いてきたからだった。
 野郎どもには、あいつの相手は荷が勝ちすぎる。
 長曾我部の側の言い訳はそんなものだ。実際、それは事実でもあった。
 そしてまた、毛利の方も、元親が国を出ている間は、大人しいものだったのだ。
 風を切り、何度でも瀬戸海を渡る。碇槍を担いで見据える瀬戸海にはいつでもあの男の姿があった。気分が昂揚する。自然と口の端が吊り上った。
 なああんたも同じだったろう。
 その、氷の面を歪ませて生意気な口を塞ぎ、ぐうの音も出ない程に屈服させてやろうと、恐らくは毛利も同じことを思っていたに違いないのだ。刃を合わせる度、射殺しそうな視線が絡み合うたびにぞくぞくと堪らなく、気分が昂揚した。戦い様は気にいらねえ、その人となりも気にいらねえが直接刃を交わすその瞬間だけは気に入っていたのだと元親も認めざるを得なかった。少なくとも直接やりあっている内は相手のお得意の策もねえ。胸糞悪い思いもしようがなかった。むしろ中国しか、見ようとしない男の眸が忌々しげに元親に向けられるのが愉快だった。
 その気分に引きずられるように元親は隻眼をすがめ、は、と笑い染みた息を吐き出す。あんた、とすごまれても、毛利が怯む筈もない。
「なあ、今すぐ、やりてぇか?」
 じわりと声に滲み出すものがある。
「あんたの小さな頭なんぞ、片手で掴めちまうぜ」
 ほら、と脅かすように目の前に鬼の手をかざす。この手にはこの男の小さな頭など、簡単に片手で掴みひねり潰す程の力はあった。鬼になってから得た力だ。
 鬼と人では胆力が違う。
 ましてや今生ではまだこの男の身体は成長途上のものに違いなかった。その肢体を隅々まで幾度も暴いた。我ながら生かさず殺さず、執拗にその内側まで弄り嬲った。これがあの男のなれの果てというのであればこの執着にも頷ける。
「……愚劣な」
 ばしりと小気味のよい音が響いた。毛利が容赦なくかざした鬼の手をはたきどかしたためだ。
 獣のような欲の滲んだ声に元親の考えていることを察したのだろう。不機嫌そうな容貌が顕わになって、それを隠していたのは自身の手であったというのに、元親は満足した気分でくつりと喉を鳴らす。それに反応するように、毛利が双眸を眇めてみせた。
「煽んなよ」
「誰が」
「俺も、あんたとやりあいてぇ」
 殺し合いはしない。多分。
「だけど、あんたは今はもう中国の主じゃねえ。
 あんたも、あの頃みたいに毛利の家と国のことばかり考えているわけじゃねぇだろうし。俺だって」
 爪の伸びた鬼の手を見下ろす。額には角が二本、恐らく生えたままだった。この姿をこいつに見せるのは初めてではないにしろ、最初から何も動揺する様子を見せない毛利には苦笑しか漏れなかった。
「今は四国の主でもねえ。野郎どももいねえ」
 元親が守らなければならないものなど何もなかった。
 なによりも、これは、俺の毛利だ。
 元親は噛み締めるように胸の中で繰り返した。元親が見つけた。元親が糧にした。じんわりと言葉が自身の裡に広がっていく。
「だから、今は話をしようぜ」
 もう一度手を伸ばす。毛利は元親の動作を凝視するばかりで、伸ばされる手を避けることはなかった。だから元親は自身のしたいようにその小さな頭を抱き寄せる。
 そうして顔が見えなくなってから、元親は口元に笑みを掃いた。毛利はおりこうさんだからなあと内心で苦笑染みた笑いが漏れる。抵抗などされてしまったらきっと話どころではない。どうしてしまうのか、自分でも責任が持てなかったせいだ。



* * *



「貴様は口ばかりだ」
 寝台の上に押し倒した毛利の言い様が酷く拗ねた子どものように感じられて、元親は苦笑した。
 冷たい、濡れる、と最初の抗議はそんなものだった。
 元親の髪から落ちた水滴が、元就の髪や肩の辺りを濡らしている。ああ、悪ぃなあ、悪びれずに笑う元親に、毛利の方も頓着する様子はなかった。風邪を引く、のかは知らぬが風呂に入れ。そのままあがるな、元親を玄関に留め置いて、毛利の姿が一瞬消える。ああ、と靴を脱いでいる間に、ばさりとタオルが投げつけられた。顔を上げれば、床を濡らすなよと言った毛利が見張るように立っている。ああ、と元親は頭に被せたタオルの影で見つからぬように笑った。その場で髪をざっと拭き、靴を脱いだ方から足を拭いて、家の中にあがる。前もそうだったが、これは、元親のことをあんまりにも簡単に家にあげすぎるな、と見下ろすと、見下ろされるのが気に入らないのか毛利が眉を寄せて見上げてきた。
 ああ、と元親が何かを思いつく前に毛利はふいっと顔を逸らした。
 目線の先には浴室がある。勝手に使え、と毛利は言った。脱衣所に入り、濡れて張り付いたTシャツを多少苦労して頭から脱いでも、まだそこに毛利が立っていた。
 不審に思って振り向くと、毛利がシャツを脱いだところだった。目が合う。
 なんだ、あんたも一緒に入るのか、思わずぽろりと思ったことを零せば、馬鹿も休み休み言え、とけんもほろろに返される。貴様のせいで濡れた。着替える。Tシャツを脱ぎかけたままの元親を押し退けるようにして、毛利が脱いだシャツを洗濯籠の中に入れる。
 その、剥き出しになった背中の肩甲骨の動きに目を奪われた。
 毛利は元親の様子に気付いた様子もない。話は後だ、と告げると、背を向ける。恐らくは部屋に戻るんだろう。元親はその背を見送りながら上を同じように洗濯籠に入れて下も脱ぎ、全裸になると浴室ではなく廊下に出た。
 この家の中のことはよく知っている。
 二階の毛利の部屋に向かうと、ちょうど引き出しを開ける背中が目に入った。毛利も気配に気が付いたのか、元親を振り向いて、目を瞠る。それから少しばかり呆れたように口を開いた。
 露出癖も大概にせよ、溜息を吐くと、貴様の着替えはこちらだと脇に手を伸ばす。元親は側に寄り、その手を自らの手で掴んだ。過去の記憶にあるものよりも、細く頼りがねぇなと思う。過去のこれも恐らくは骨格自体の作りが細かったのだろうが、その痩躯に反してそれでも鍛えられた男の身体をあの男はしていたのだった。あの重い輪刀を、時には片手でも自在に操ってみせたのだから、あの細い身体にも相応の胆力が備わっていたのだ。その必要のないこれの身体はいまだ成長途上のものであることもあって、元親には随分と頼りがなかった。

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